第5世代移動通信システム「5G」の世界は、もう目の前まできています。
ここでは「5Gとはそもそも何を実現してくれるのか?」という点について、4Gからの技術革新による3つの特徴から解説していきます。
記事を読んで、ぜひ5Gの恩恵をより深く理解しましょう。
5Gがもたらす未来の様子は、こちらからのぞいてみてください。
5Gを構成する3つのビジョン
1Gから始まった移動通信サービスでは、代々その世代において「なにを実現するものか」というビジョンが定義されてきました。
5Gにおいてももれなく、3つのビジョンが定義されています。
①高速大容量通信
②超信頼・低遅延通信
③多数同時接続
3つのビジョンを知ることで、5Gによって何ができるのかをより深く理解できます。
さっそく5Gにおける「3大ビジョン」の詳細を見ていきましょう。
①高速大容量通信
高速大容量通信とは、文字通り「高速で大容量のデータ通信が行える」ということです。
5Gの通信速度は実に、4Gの10倍以上といわれています。
4Gの速度
上り:最大数百メガbps
下り:最大1ギガbps
5Gの速度
上り:最大10ギガbps
下り:最大20ギガbps
(上り=端末から基地局への通信、アップロード)
(下り=基地局から端末への通信、ダウンロード)
特に上りの通信速度の向上は桁違いです。
この技術革新によって、5Gの生活シーンへのさまざまな応用(たとえばXR(VRやAR技術の総称)コンテンツやクラウドゲーム、ライブなどのエンターテインメント業界など)が見られます。

(高速大容量通信は、さまざまなシーンに応用されます)
5Gの生活シーンへの応用は別記事で紹介しますが、ここでは、高速大容量通信を実現する技術革新の1つを見ていきましょう。
【5Gでは、高い周波数の電波を制御できる】
4Gと5Gの大きな違いは、高い周波数の電波を制御できるようになったという点です。
結論からいえば、高周波な電波を制御できることで、たとえば駅や繁華街など、人が密集する地帯でもスムーズに通信することができます。
移動通信システムには、それぞれ電波が割り当てられます。
4Gまでに割り当てられた電波のうち、もっとも高い周波数は3.5GHz帯でした。
一方、5Gにおいては、「サブ6帯」の3.7GHz帯と4.5GHz帯、「ミリ波帯」の28GHzが割り当てられています。5Gの電波がいかに高いかが分かります。
高周波な電波を制御できるようになったのは、主に「ビームフォーミング」や「Massive-MIMO」という技術のおかげです。簡単に以下に説明していますので、興味があればグレー部分をお読みください。

Massive-MIMO(マッシヴマイモ)
基地局のアンテナを集積する技術。無線LAN通信を高速化させる技術「MIMO」のさらに大規模なもの(Massiveとは「大規模な」という意味)。Massive-MIMOでは、送信側のアンテナが劇的に増える。
ビームフォーミング
一定方向に指向性の高い電波を送信する技術。(※指向性=電波などの波が、その源から向かう方向によって強さが異なること。指向性が高い電波とは、その方向に向かって電波が集中しているという意味)
これらの技術を駆使し、高い周波数を制御することによって、5Gでは高速大容量通信を実現しています。
②超信頼・低遅延通信
5Gの遅延は、4Gの10分の1といわれています。
たとえば、昨今テレワークによるテレビ収録も増えていますが、通信のタイムラグもよく見受けられます。
ラグにより話が噛み合わないことも…
しかし、5G通信であれば、通信のタイムラグもなく、オンタイムで会話が可能です。
超信頼・低遅延を実現する技術としては、無線区間の信号送信時間を短くする技術のほか、主に以下が挙げられます。
「超信頼・低遅延」を実現する技術
・エッジコンピューティング
・C/U分離
・ネットワークスライシング
以下に簡単に説明しているので、興味があればグレー部分をお読みください。
エッジコンピューティング
通信経路を短くして、通信を簡略化させる技術。通信事業者にとってのネットワークの端(エッジ)=基地局で処理(コンピューティング)を行うことから、エッジコンピューティングと名付けられた。
【例:ネット上の映像コンテンツをスマホからダウンロードする場合】
①通常の通信
スマホ
↓↑
基地局
↓↑
コアネットワーク
↓↑
ネット上のサーバー
②エッジコンピューティング
スマホ
↓↑
基地局
↓↑
基地局近くに設置されたサーバー
上記の通り、エッジコンピューティングではユーザーの近くにサーバーを大量に設置する必要があるため、限定的なエリアでのサービスに有効とされています。
C/U分離
制御系の通信「C(コントロール)プレーン」と、データ伝送系の通信「U(ユーザー)プレーン」を分ける技術。
Cプレーン:デバイスがどの基地局に接続しているか、通信可能な状態にあるかを判断して制御する通信
Uプレーン:データをダウンロードするなど、データを伝送するための通信
【例:クルマの自動運転を実現させるために】
自動運転を実現するには、高速で移動しながら、周囲の車両や歩行者、信号などの状況を瞬時に判断し、その解析結果を遅延・切断なく送信しなければなりません。
前述の通り5Gは「ミリ波帯」という高周波な電波を使用しています。ミリ波帯は高速で大容量通信が行える一方、4Gよりも基地局あたりのカバー範囲が狭いため、遠方に電波を届けるのが苦手です。
よってこの場合、遠方にどう届けるかというよりは、通信する基地局をいかに連続的に素早く切り替えられるかどうかが非常に重要になります。
そこで、5Gの世界ではC/U分離によって
・基地局の切り替え制御は従来の4G
・実際の通信には高速大容量低遅延の5G
という運用を可能にしています。
ネットワークスライシング
通信の種類ごとに仮想的に分割する技術。リソースの配分が考慮されるため、ネットワークの混雑を解消し、運用をスムーズにしてくれます。
このように、多様な技術革新や新たな考え方によって、5Gの超信頼・低遅延が実現されています。
③多数同時接続
多数同時接続とは、つまり「一つの基地局に、多数のデバイスが同時にアクセスできる」ということです。
4Gにおいては、ひとつの基地局に100台程度しか接続できませんでした。5Gでは、4Gの100倍である10,000台が同時接続できるようになります。
これは、スマートフォンに限らず、あらゆるモノがインターネットに接続されるIoTの世界を見据えているといえるでしょう。
多数同時接続を可能にしているのは、「グラント・フリー」という方式です。

グラント・フリー方式
デバイスと基地局間の通信をシンプルにする方式。
通常は、デバイスと基地局が事前にやり取りを行い、基地局が「グラント」と呼ばれる事前許可を発行することで、初めてデバイスはデータを送信することができます。
一方、グラント・フリー方式では、この事前のやり取りを排除することで、許可なしでデータを送信できるというシンプルな構造になっています。
この方式によって、あらゆるデバイスが同時に接続できる数が多くなります。
データが破損する恐れもありますが、その場合の再送の仕組みも含めて設計されているのが特徴です。
移動通信システムの歴史
最後に、移動通信システムの歴史を振り返ってみましょう。
1Gの誕生以降、移動通信サービスはキラーサービスとともに、10年ごとに進化を遂げています。
移動通信システムの歴史
【1G(1980年代~):携帯電話の誕生】
アナログ方式による音声(を電波に乗る信号に変換して)伝送。
【2G(1990年代~):データ通信の誕生】
デジタル方式によるデータ通信。メールやウェブが誕生する。
1999年にiモードやEZweb、2000年にJ-PHONEによる「写メール」
【3G(2001年~):携帯電話のプラットフォーム化が加速】
ドコモのFOMA誕生。第一次通信高速大容量化。
3Gが初めて国際標準としての移動通信サービスとなり、日本の携帯電話が海外でも使えるようになる。
2008年にソフトバンクから「iPhone 3G」がリリース。
【4G(2012年~):大容量コンテンツの普及】
動画配信サービスやモバイルゲームなどが急速に普及。
そして5Gへ……
移動通信システムにおいては
移動通信システムの技術が進歩する
↓
新しい革新的なサービスが誕生する
↓
革新的なサービスがさらに移動通信システムに新たなステージを要求する
↓
移動通信システムが進歩する……
という、好循環な仕組みが生まれています。最大通信速度は30年間で約10万倍にものぼり、その技術の進歩がうかがえます。
そして現在、世界の状況はまた変わりつつあり、移動通信システムの在り方も変貌が求められている、まさにその渦中です。そのような中で、いよいよ5Gの世界が目前まで迫っています。